宗家御挨拶

専武流初代宗家  大澤俊一光風

専武流武道塾の開設にあたり、御挨拶を申し上げます。専武流は剣家大澤家の系譜図の通り、江戸、明治、大正、昭和の時代に一族より多くの剣士を輩出し、野田市蕃昌の地に神道無念流師範家、小野派一刀流・明信館支部長として、幕末維新の動乱から明治、大正、昭和戦前、戦後の剣道復興期まで多彩な足跡を遺して参りました。特に私の祖父・大澤専二は剣聖高野佐三郎先生の最古参門弟として近代剣道の発展と共に警察剣道の指導、剣道の学校教育正課採用という剣道史の大転換期に恩師高野佐三郎先生を支えて、学校の教師・生徒に対する剣道指導育成に足跡を遺して参りました。大日本帝國剣道形(日本剣道形)の制定に際し、西の「大日本武徳會」側と東の嘉納治五郎先生、高野佐三郎先生を中心とする「文部省」側、全国諸流派の代表剣士が激しい議論を交わして時期がありました。その議論の真っ最中の明治45年5月、祖父・専二は第17回大日本武徳會大演武大会で全勝優勝、同月の全国府県代表剣士で名誉を競った皇居済寧館での宮内省台覧演武大会(後の大正天皇御栄覧、山県有朋元帥、乃木希典大将臨席)では、当代最高の権威者である高野佐三郎先生、門奈正先生、内藤高治先生、中野宗助先生、大島治喜太先生の各範士と共に召され、当時の最強剣士である大日本武徳會の重鎮・門奈正先生と決勝で戦い優勝、恩賜の光栄によくしました。この快挙に大澤専二の令名大いに揚がり、恩師高野佐三郎先生はじめ一門こぞって喜びに沸いたと伝えられております。記録によれば、門人中、星野仙蔵、青木七郎、大澤専二、高野茂義は「四天王」と呼ばれ、気品の大澤専二、剛健の高野茂義の二人が高野門の双璧、「龍虎」と呼ばれていた時代がありました。大正四年の初め、高野茂義先生は満州鉄道に剣道の指導のため赴任。大澤専二は最古参高弟として門下の先頭にたち、大正四年に名著「剣道」の発刊と編集に尽力致しました。専二が剣道の要訣を記した毛筆書きの「剣道」上下二巻が野田市郷土資料館に保存されております。大澤専二は東京高等師範学校(校長嘉納治五郎先生)の剣道講師、千葉師範学校の県道教師をはじめ、剣道を通じて青少年の育成に力を尽くしてきました。「専二門人帳」には750余名の自筆署名の上下2巻の巻物が保存されております。専二はまた七福村(野田市)の村長に就任するなど地域の発展にも力を尽くしました。祖父専二は私が生まれる前の大正12年8月、45歳の若さで惜しまれつつ逝去致しました。その後は専二の実弟亮一(後に剣道範士8段])、専二次男龍(修道館幹事長・後に剣道教士7段)は共に高野佐三郎門下の小野派一刀流の剣士として活躍致しました。昭和3年に野田醤油内に「春風館」武道場が開設されました。大叔父亮一が剣道師範として野田醤油の指導に当たり、開場式には高野佐三郎先生ら有名剣士が多数臨席しました。私の父・博は昭和5年、野田醤油に入社、定年まで秘書室などを努め、野田醤油剣道部の育成に力を尽くしました。野田醤油剣道部は師範大澤亮一はじめ叔父龍などの指導により、昭和9年の第一回全国工場対抗剣道大会で優勝。昭和10年の第二回大会連覇、唱和9年、大日本工場スポーツ連盟剣道大会優勝。全国実業団剣道大会にしばしば出場し、講談社チームと共にその堂々たる試合ぶりは強豪チームとして全国から大いに注目されたと記録されております。昭和20年、日本は太平洋戦争敗戦。剣道など日本武道はJHQ連合国司令部により全面的に禁止されました。そのため、野田市の「春風館」での剣道稽古もできなくなりました。私は野田醤油関係者から松濤館空手を紹介され、剣道に代えて空手をはじめました。私の高校時代の同級生で盟友の田中毅一先生と共に昭和22年に県立春日部高校に空手同好会を設立しました。その後、剣道を志していた学生、青年たちが始めた剣道の防具を付けて試合をする剣道思想の色濃い「防具付空手道・錬武館」に入門、空手の修行を始めました。私の祖父専二はじめ大叔父亮一、叔父龍は小太刀や体術の修行もかなりやっていたそうで、私も戦前戦後の激動期に男の義務として敵を必ず倒す必殺の小太刀などの武術を修行しました。私の実家である野田蕃昌大澤本家に来訪、宿泊する多くの剣客から剣道の世界のことを教えられました。私が学生時代に東京都内の伯父龍の家に寄宿していたこともあり、戦後の異常な混乱期に、小野派一刀流の秘剣とも云うべき実戦的な小太刀剣法を真剣に修行させられました。加えて防具付空手道錬武館流の後輩である現・専武流二代宗家の吉澤星舟と共に剣家大澤家に伝わる小太刀勢法を基に、小太刀や鉄扇術などの日本伝統武道の武器術、体術などを研究工夫練磨を重て参りました。。日本伝統武道は、日本刀真剣の剣の道から体術を経て「無刀」へ、また無刀・素手・空手から体術、武器術、小太刀などを経て剣の道へ。円を描く様な武の道の一致が専武流の武道理念です。専武流は神影流25世宗家豊島一虎勝峰先生の室町時代から続く「神影流」と武道上の縁を結んでいただき、日本刀真剣の妙技と伝統武道の精神を研究させていただいております。真に武道を修めたる者「武道の理は身体と精神と両方面に応用し、心身共に武道の理によりて生活活動を為す者を真に武道を修めたる者と云うべきである」この一文は祖父専二の未刊の書「剣道」の中の一文です。専武流武道塾ホームページの目的は、祖父専二の恩師高野佐三郎先生の名著「剣道」の礎となった埋もれている「剣道の要訣」を世に広めること。古来より伝わる数々の「武道伝書」を研究し、日常生活に応用できる武道を共に学ぶことができるように『仮想空間武道塾』を通じて「武道伝書の要訣」や「伝統武道実技」を世界に発信することにあります。日本伝統武道に関心のある皆様に閲覧していただければ幸甚です。    平成28年8月吉日   大澤光風